2021.05.03
ハルノカワ2021
徳島の春の川は3月から解禁になり、釣りが可能となる。
そして秋からは川へ入れない。
県内の川はおおかた9月頃で禁漁となるからだ。
そのころには源流の魚たちも紅葉して産卵期にはいる。
釣り師が訪れない静かな川で、その静謐な支流をのぼり、小さな産卵床に尾びれを震わせながら命をつないでいく。
早朝、川へ降りてゆくと木立の合間からキラキラと春の光が迎えてくれる。
水面の反射に目を細めても目がくらむ、それも心地よいのが春の川だ。
一年ぶりに聞く、耳いっぱいのせせらぎと樹木から漂う芳香は空間に充満して、下界への帰り道を断ち切られそうでもある。
そんな恐怖も感じながら、ヒカリの中へ毛鉤を投入した。流れに引っ張られて何も出ず。
次のポイントは、大岩と大岩の間の落ち込みから左岸へあたり、こちらへ流れている。
二投目、大岩との間を通し毛鉤を落とす。ちょうどY字の流れの真ん中へ毛鉤を落とした感じだ。
左岸に当たる手前で毛鉤が消えた瞬間、反射的に合わせている。
竿を通して振動が伝わった。確かにいきものの動きだ。
重い粘りに、竿を立てて耐える。
中国の故事にある。
一時間幸せになりたかったら、酒を飲みなさい、
三日間幸せになりたかったら嫁を貰いなさい、
八日間幸せになりたかったら豚を殺して食べなさい、
一生幸せになりたかったら、釣りを覚えなさい。
もう20年以上、この場所へ来ている。
川の宝石は少しの間この手の中で話してくれる。
そして宝石の川へ帰っていった。
いつまでもこの風景があることを願う。
まさみ